立花宗茂に勝利をもたらした「摩利支天」
2023/5/22NHK大河ドラマ「どうする家康」第19話(5月21日放送)のオープニングのアニメーションを見た瞬間、テンションがあがりました。
摩利支天だ!
立花家史料館にとっては馴染みの深い神像なので、どのような扱われ方をするのだろうと、本編を食い入るように見てしまいました。
「どうする家康ツアーズ」で恵林寺(山梨県甲州市)の不動明王像(武田不動尊)がとりあげられていたので、それに呼応させたのでしょうか。
* 武田不動尊について大変興味深い記事がありました。「武田不動三尊像について、学術的な新発見が公式発表されました... 」(恵林寺HP)/「武田不動尊にかかる新たな発見について」(甲州市HP)*
戦国時代、生きるか死ぬかの一瞬を生きた武将たちは、我が身の安泰や一族の存続を切実に願い、九万八千とも数えられた神や仏を頼みにしました。
立花宗茂もさまざまな加護を願っていたことが、残された護符類から推測されます。特に目を引くのが、宗茂が自身の守護本尊としていた、摩利支天への信仰です。
摩利支天は、陽炎が神格化したもの。光により自らを見えなくする「隠形」の効能を特徴とします。
実体のない光は、捕まえられることも傷つけられることもなく、まっすぐに進んでいくのです。
戦国時代には、戦勝の神として、武士たちから篤く信仰されていました。
こちらの 三神が描かれた掛軸をご覧ください。

立花宗茂が、戦の陣中に持参したものと伝えられてきました。
陣中に持参しやすい感じの、すこし小ぶりの掛軸です。
* 当館での過去の展示の様子から、大きさが伝わるでしょうか *
各像の姿や持ち物から判断して、猪に乗った中央の神像は摩利支天、軍馬に乗った甲冑姿の神像は将軍地蔵(勝軍地蔵)、笏を手にした右の神像は、高野山の鎮守である高野明神とみられています。
このような三神の図像は、他にあまり例を見ない組み合わせです。
そして、摩利支天に注目!!

顔が3面、腕が6本ある男神で、弓矢や金剛杵を持ち、1頭の猪の背に座った姿で描かれています。
しかし、NHK大河ドラマ「どうする家康」に出てきたのは女神でした。
実は、摩利支天は古代インドの女神に由来するのですが、日本では平安時代から、男神としても描かれるようになりました。
猪に乗っている姿で描かれる例が多く、猪が7頭に増える場合もあります。
突進する猪の素早さに、災いを払い除けて進む「光」のイメージが重なるのでしょうか。
光といえば、このキラメキ。
現存する立花宗茂の甲冑2領 「鉄皺革包月輪文最上胴具足」と「伊予札縫延栗色革包仏丸胴具足」には、どちらも大輪貫頭形兜に鳥の羽根で作られた飾り(鳥毛後立)が付いています。
わたしは、この鳥毛後立のキラメキを見るたびに、摩利支天を連想します。
金をつかわず “輝く光” をあらわすのに、このニワトリの羽根はもってこいではないでしょうか。
* 以前、このニワトリの羽根について、フカボリしました *
この鳥毛後立の羽根のキラメキは、展示ケースのガラス越しでは見えにくいので、常々はがゆく思っておりました。
今回のオンラインツアーは絶好の機会です。是非、様々な角度から見るキラメク鳥毛後立をご堪能ください。
オンラインツアー「立花宗茂の甲冑大解剖Ⅱ~すべて魅せます!表も裏も細部まで~」(2023.6.2開催)では、「鉄皺革包月輪文最上胴具足」の内側や細部を植野館長が直接カメラで撮影しながら解説。付録ブックレット(B6版フルカラー 24頁)も大充実。他の武将の当世具足を鑑賞するときにも必携の書となるはずです。
立花宗茂と徳川家康の年齢差は、約四半世紀。
いろいろ違いはありますが、信じるところは同じなのかなと、放送を見ながら感慨にふけりました。ただし、家康さんの摩利支天信仰については、今回のドラマで見ただけですので、あとでちゃんと調べます。
大輪貫鳥毛後立兜をデザインしたモチーフを刺繍した、ミニタオルハンカチができました。 使いやすく、上質なタオルです。
参考文献
高野山霊宝館「仏に関する基礎知識:摩利支天」( > 収蔵品紹介 > 仏に関する基礎知識 )、吉田典代「 摩利支天をめぐる言説と美術 : 日天との関わり」(『研究年報』 65号 2019.3 學習院大學文學部)
*** ココまで知ればサラに面白い ***
学芸員として人前で作品解説をする際、ココまで知ればサラに面白くなるけれどと思いながらも、時間等の都合でフカボリせずに終わらせることは少なくありません。そんな、なかなかお伝えする機会のないココサラ話をお届けします。