立花伯爵邸たてもの内緒話「知られざる四分一」
2023/1/26四分一と書いて、シブイチと読みます。
辞書には、
①4分の1。四半分
② 銅3、銀1の割合で作った日本固有の合金。装飾用。朧銀。
③室内の貼付壁をとめるために周囲に取り付ける漆塗の細い木
と3項目の説明があります。 ※広辞苑・大辞林・大辞泉の記述を要約
今回の「四分一」は③の建築で使われる用語です。わたしは、刀装具などの金工品に用いられる②は知ってましたが、③は立花伯爵邸の修復工事を担当するまで知りませんでした。
しかし、立花伯爵邸「大広間」を見学された方すべてが、「四分一」をご覧になってるはずです。
お分かりいただけますでしょうか?
コレです。
「四分一」とは、4分×1寸、つまり断面が約12㎜×約30㎜であることに由来する呼称です。建築現場で壁や床などの境目を美しく始末するための「見切り材」の一種で、主に紙や布を貼った貼付壁の縁に取り付けられています。
実際にご見学いただくのが一番なのですが、修復前・修復後の両写真を凝視すると、各区画の壁紙に額縁のように付けられているのが見えてきませんか?
平成28~31年(2016-2019)の修復工事では、立花伯爵邸「大広間」の壁紙をすべて貼り替えました。
京都から職人さん達が下見に来た際に、わたしは初めて「四分一」を視認しました。何年も見てきて、来館者の皆さまに解説することもあった「大広間」なのに……まことにお恥ずかしいかぎりです。
壁紙を貼り替えると同時に「四分一」も新調するのですが、いくつかの難点が挙げられました。
1 現在は紙の貼付壁が激減しているうえ、さらに「四分一」の施工例は希少で、施工経験のある職人さんも少ない。
2 「大広間」の「四分一」は黒漆の塗立で仕上げられているが、細くて長い木材に漆を塗るにはコツが必要で、扱える職人さんはごく少数であり、高齢化している。
3 「大広間」の「四分一」は最長で2メートルを越える長さとなり、数も多いため、漆塗りに体力を要し、高齢化された職人さんから忌避される可能性がある。
浅はかな考えで「再利用しては?」と訊いてみましたが、「四分一」は釘付けされていて、旧壁紙を剥がすには毟りとるように撤去するしかないとのこと。
釘? どこに? ※これは実際の工程を見て初めて理解できました。
壁紙の撤去は修復工事の序盤でした。まだまだ修復は続きます。
ここで外された「四分一」の断面を見てはじめて、角が削られる「面取り」加工に気づきました。当然、すべての「四分一」が「面取り」されています。
このような、とても丁寧に工程が重ねられた贅沢さは、大名から伯爵となった立花家400年の歴史の重みでもあります。
この贅沢さは立花伯爵邸の建築の各所に隠れていて、わたしも修復工事の過程でいろいろと再発見しました。しかし、どれも派手な綺羅びやかさはなく、一見しただけでは分かりにくいのです。
なかなかお伝えすることが難しい立花伯爵邸の見どころを、学芸員として非常にもどかしく思っていましたので、遅ればせながら修復工事の裏話も含めて、このブログでご紹介していきます。
【立花伯爵邸たてもの内緒話】は、明治43年(1910)に建てられた立花伯爵邸の建物・庭園の、内緒にしている訳ではないのに誰もご存知ない、本当は声を大にして宣伝したい見どころを紹介します。また、(株)御花 が続けてきた文化財保護活動の一環である、平成28~31年(2016-2019)の修復工事の記録や裏話もあわせてお伝えします。