上げ下げ窓を上げ下げする機構
2024/1/8前回にて繰り返しご覧いただいたように、明治43年(1910)築の立花伯爵邸西洋館の上げ下げ窓は、とても軽やかに上げ下げできます。
立花伯爵邸西洋館の窓はどれも大きいのですが、その大きさに見合った重さを予想しながら窓を開けると、肩透かしを食らいます。
どうしてこんなに軽いのでしょうか? タネやシカケはどこに?
わたしには何の変哲もない木造の窓枠しか見えません。
株式会社 御花は、平成25年から27年(2013~15)の3ヵ年にわたり、外壁のペンキの塗り替えを主とする、西洋館のメンテナンス工事を実施しました。災害復旧にくらべると急を要しないため、閑散期である夏季に集中して施工されました。
外壁だけでなく、窓の状態もかなり悪化していたので、西洋館のすべての窓を取り外して、点検・修理をしていきます。
窓を取り外している現場では、予期せぬ”力技”に驚きました。
※5倍速
作業のお邪魔にならないよう注意して、もう少し近寄ってみます。
(手ブレがひどく、ピントがズレている点はご容赦ください)
※音声注意
あらこんなところに、紐と錘と……滑車?
タネとシカケがここに‼
立花伯爵邸西洋館の上げ下げ窓は、「分銅式」の錘 オモリ を用いた機構により、上下の窓がどちらも自在に動かせる「両上げ下げ窓」です。
窓と同じ重さの分銅がバランスをとることで、小さな力での開閉や、開閉状態の固定が可能になっています。窓枠に仕組まれた分銅は、窓枠上部に取り付けられた滑車を介して、窓の両側とロープで繋がり、窓が分銅で吊るされたような形になっているのです。エレベーターと同様の仕組でもあります。
実際、メンテナンス工事の際に錘を量ると、およそ4.5kgほどでした。つまり、窓1枚の重さは4.5×2=9kgとなります。
ちなみに「上げ下げ窓」は、「引き窓」と比べると、戸車がないため気密性が高まる一方、上下に開口部をつくれるため換気効率も上がります。構造上外から開けにくいため、防犯面も安心です。
立花伯爵邸西洋館の各窓枠には、上下2枚の窓と、ロープでつながる4つの分銅が収まっていますが、100年が経過するなかで、木製建具がゆがんだり、ロープが切れたり、滑車が回らなくなったり、分銅が腐食したりと、様々な不具合が生じていました。
メンテナンス工事では明らかな不具合は修理しましたが、建築当初の素材や機構をできる限り後世に伝えたいと、切れずに残っていたロープや分銅など、経年劣化が明らかな部品でも、なるべく現役で頑張ってもらっています。
ですので、
100歳を超えた木造建築に斟酌していただき、通常のご見学時には、窓の開閉はご遠慮ください。
その代わり、いつでもこちらで、宗茂さんと誾千代さんが上げ下げ窓を上げ下げしている様子を御覧いただけます。
【立花伯爵邸たてもの内緒話】
明治43年(1910)に新築お披露目された立花伯爵邸の建物・庭園の、内緒にしている訳ではないのにどなたもご存知ない、本当は声を大にして宣伝したい見どころを紹介します。また、(株)御花 が取り組んでいる文化財活用の一環である、平成28~31年(2016-2019)の修復工事の記録や裏話もあわせてお伝えします。