Twitter
Instagram
facebook
Twitter
Search:

立花伯爵邸には無いモノを紹介します

2023/3/5

前回の オンラインツアー《明治後期・大正期の「床の間」拝見》でよそのお宅をのぞいていると、立花伯爵邸には無いモノが、とても気になりました。

 

学芸員として目の前の作品を解説するとき、無いモノは説明しづらいので、在るモノだけを紹介せざるを得ません。

しかし、無いモノにも、無いことの理由があり、「無い」という特徴になるのです。

そこで、Googleマップ ストリートビューでよその例を挙げながら、立花伯爵邸には無いモノを紹介します。

 

 

立花伯爵邸には、趣向を凝らした天井がありません(ただし、西洋館にはお洒落な天井があります)

 

まずは、重要文化財「旧伊藤家住宅」(福岡県飯塚市)はどうでしょう?

「旧伊藤家住宅」は、筑豊の炭鉱経営者・伊藤傳右エ門(1860~1947)の本邸として、明治39年(1906)から建設が始まり、昭和初期まで増改築を重ねました。

解説付き旧伊藤伝衛門邸3Dパノラマビュー

 

北棟「本座敷」廊下が、矢羽 ヤバネ 天井となっています。

柾目の板を斜めにして、V字を連続させたような文様に貼り、錯視効果を狙ったともいわれます。

畳を横使いに敷き詰め、広さが強調される畳廊下は約50mつづきますが、欄間で区切られた、本座敷と次之間の範囲外は、装飾性が低い棹縁 サオブチ 天井です。

※埋込画像が出ないときは、再読み込み(リロード)してください

 

趣向を凝らした天井をもつ廊下は、重要文化財「旧岩崎家住宅」(東京都台東区)にもあります。

「旧岩崎家住宅」は、三菱第3代社長・岩崎久彌(1865~1955)の本邸として、明治29年(1896)に建てられました。

洋館と和館がつながる廊下が、船底 フナゾコ 天井です。横にわたされる梁は、岩崎家の家紋にちなんだ三菱紋形に削り出されているそうです。


並べてみると、実際よりも廊下が長く見える効果を狙っているように感じます。

ちなみに、両者の廊下の幅はおおよそ同じです。

 

旧長州藩主の毛利家が大正5年(1916)に建設した重要文化財「旧毛利家本邸」山口県防府市)では、角材を格子に組んだ格 ゴウ 天井が、重厚さを醸しだしています。

格天井(小組格天井)は、この部屋「本館客室(一階大広間)」の格式の高さをあらわします。

向かって左奥、床の間がある部屋は、天井の中央部分を一段高くへこませた折上 オリアゲ 格天井にして、さらに高い格をあらわしています。

Googleマップ ストリートビューではのぞけませんので、実際に訪れた際に是非ご覧ください。

 

 

重要文化財「旧毛利家本邸」は、当主家族が食事をとる部屋「食事ノ間」の天井もスゴイ‼

内側は格天井で、一枠ごとに木目の方向を互い違いに配しています。周囲を囲むのは一枚板なのでしょうか?

 

重要文化財「旧毛利家本邸」では、このように、いたるところで豪奢な木材を堪能できます。

 

例えば、重要文化財「旧毛利家本邸」の、玄関から応接間にいたる廊下は、台湾産の巨大ケヤキの一枚板です。

一枚板とは、大きく育った一本の木から切り出された、継ぎも接ぎもない板のこと。とくに節がなく木目が美しいものは珍重されます。

そして、部屋部屋を仕切る各板戸は屋久杉(神代杉)の一枚板。

 

 

立花伯爵邸には、このような一枚板はありません。

 

もちろん、立花伯爵邸「大広間」や「御居間」の柱や長押に使われているスギ材は、すべて均一な柾目で、とても上等です。

他の部材も、伯爵邸の建築にあたり、選び抜いた大量の高級木材を、大阪から運んできました。

平成28~31年(2016-2019)の修復工事では、屋根裏にいたるまで贅沢に木材を使っていると、どの大工さんも褒めてくださいました。

 

でも、立花伯爵邸には一枚板は無く、わかりやすいケヤキやヒノキも無いのです。

 

しかし、趣向を凝らした天井一枚板も無いことが、立花伯爵邸の特徴-明るさと軽やかさと新しさ―を、より際立せているとも言えます。

とくに、重厚でゴージャスな毛利公爵邸と、軽妙でスタイリッシュな立花伯爵邸と、それぞれの個性が対照的なのも、大変興味深いです。

 

 

今回は、重要文化財「旧伊藤家住宅」も、重要文化財「旧岩崎家住宅」も、重要文化財「旧毛利家本邸」も、立花伯爵邸と比較するために、ごく微細な点しか取り上げておりません。

どれも本当に素晴らしい建物ですので、Googleマップ ストリートビューでも楽しめますが、ぜひ実際に訪れて、床の間を見て、天井を見て、各部材をイチイチ見て、同行者や周りの人々から不審がられてください。

 

【2013.3.14追記】

浅学のため見逃していました。毛利博物館の柴原館長が、「旧毛利家本邸」の見どころを解説される、贅沢で素晴らしい動画です。レポーターの方がとても羨ましい……

ウチのことではありませんが、強くオススメいたします。

You Tube「防府市公式チャンネル」

『重要文化財 旧毛利家本邸(前編)』(ほうふほっとライン:2021年7月放送)

『重要文化財 旧毛利家本邸(後編)』(ほうふほっとライン:2021年8月放送)

 

 

参考文献 国指定文化財等データベース(文化庁)、飯塚市HP「旧伊藤伝衛門邸の庭園国の名勝指定」、飯塚市HP「旧伊藤伝衛門邸」旧伊藤伝衛門邸(福岡県飯塚市)、砂田光紀『旧伊藤伝衛門邸 筑豊の炭鉱王が遺した粋の世界』旧伊藤伝衛門邸ブック制作委員会、毛利博物館HP「毛利邸見所紹介」、毛利博物館(山口県防府市)、『旧毛利家本邸の百年』2018.10.22(公財)毛利報公会 毛利博物館、旧岩崎邸庭園(東京都台東区)、内田博之『旧岩崎邸庭園 時の風が吹く庭園』2011.6(公財)東京都公園協会

【立花伯爵邸たてもの内緒話】は、明治43年(1910)に新築お披露目された立花伯爵邸の建物・庭園の、内緒にしている訳ではないのに誰もご存知ない、本当は声を大にして宣伝したい見どころを紹介します。また、(株)御花 が取り組んでいる文化財活用の一環である、平成28~31年(2016-2019)の修復工事の記録や裏話もあわせてお伝えします。

▲ページの先頭へ