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「大広間」のヒミツ-明るさと軽やかさと新しさ-

2023/2/6

立花伯爵邸「大広間」の明るさと軽やかさのヒミツは、修復前の写真にも写っています。

2016年7月 修復工事の直前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お分かりいただけますでしょうか?

 

現代を生きる私たちは、明るくて広い室内空間に慣れすぎているので、驚きなく「大広間」を受け入れてしまいます。

よく畳の数を質問されますが、わたしが宣伝したいのは軽やかな開放感です。

ただし、「大広間」は襖で3室に区切られますが、近年はすべての襖をはずしているので、より開放感が増しております。

 

立花伯爵邸「大広間」は、室町時代にはじまる住宅建築の様式「書院造」をきちんと踏襲し、旧大名家にふさわしい格式を備えています。

 

*「書院造」については『NHK for School』の動画解説 がわかりやすいです

*「書院」とは、本来は呼称のとおりの書斎でしたが、[例:『吉水神社書院』【重要文化財】、『慈照寺東求堂【国宝】NHK for Schoolの動画解説)] 時代が下がると、接客や儀礼の場として使われるようになり、大規模な書院もつくられました。[例:『二条城 二の丸御殿【国宝】、『本願寺書院(対面所及び白書院)【国宝】、『名古屋城 本丸御殿(復元)』]

建築の様式がわかりやすい画像が見られる例を選んでますので、ご興味がある方は各サイトをご覧ください。とくに名古屋城本丸御殿は3Dバーチャルツアー『本名古屋城丸御殿(表書院をスタート地点に設定してます)』も楽しめます。

 

しかし、明治41年(1908)築の立花伯爵邸「大広間」には、近代ならではの新しさもあります。

新しさを実感していただくために、近世の書院造と比べてみます。立花伯爵邸「大広間」とだいたい同規模で、使われ方も似てるような気がする、『高山陣屋』【国史跡】(岐阜県高山市)の「大広間」を、見比べる相手として勝手に選んでみました。

岐阜県高山市「高山陣屋」https://jinya.gifu.jp/ フォトギャラリーより

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高山陣屋はなんと、「測定モード」がある3Dバーチャルツアーが可能です。こちらの 『高山陣屋』「大広間」 をゆっくりご堪能いただいてから、立花伯爵邸「大広間」に戻ってきてきてください。

立花伯爵邸「大広間」修理後の写真ですが、見比べやすいので

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このように並べると、よくわかるのではないでしょうか?

立花伯爵邸「大広間」の縦・横の木材(柱・長押)が細くて、数が少ないのは一目瞭然です。

また障子・ガラス障子・欄間障子が嵌められていて見過ごしがちですが、とにかく壁がありません。

加えて天井も高いので、とても明るく軽やかで開放感がある室内空間となっています。

 

2017年6月 障子の張り替え

2017年7月 細い柱しかありません

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この開放感ある室内空間は、建築当時の新技術によって実現できました。明治時代に日本へもたらされた技術の1つ、トラス構造で屋根を支えているのです。

立花伯爵邸「西洋館」「大広間」断面図

 

 

 

 

 

 

 

従来の屋根の構造、いわゆる「和小屋」では、屋根を支える力を下へと流します。他方、三角形のトラス構造「洋小屋」は、力を外に分散させるので剛性が高くなり、各部材をより細く、柱と柱の間をより広くすることができます。

 

例えば、立花伯爵邸と同時代の設計例として木子幸三郎「渡辺伯爵邸日本館書院矩計図 」(明治36、7年頃 東京都立図書館蔵)をご紹介しますが、斜めの筋交いはあるものの、こちらは「和小屋」です。

木子幸三郎「渡辺伯爵邸日本館書院矩計図 」(明治36、7年頃)東京都立図書館蔵

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在も「和小屋」と「洋小屋」は使い分けられているので、新技術だからといって、日本の屋根の構造が一変した訳ではありません。実際、立花伯爵邸「御居間」棟の屋根は「和小屋」です。おそらく必要な室内空間の広さにあわせて使い分けたのでしょう。

 

立花伯爵邸「大広間」の屋根を、並列する「西洋館」と同じトラス構造としたのは、近世には見られなかった、明るさと軽やかさがある広い空間が求められたからではないでしょうか。

そして、立花家のお歴々は、とても「新し物好き」だったのです。

 

立花伯爵邸の新築から現在までの110年間では、めまぐるしく産業技術が更新され続けていて、最新技術がすぐに古びてしまいます。現代において、伯爵邸の初お披露目のときの新鮮な驚きを追体験するのはとても難しく、自らの知識をタイムスリップさせなければなりません。

上から長々と書きつらねてきたように、時代を遡るための解説がとても煩雑になってしまうのが、このブログの悩みのタネです。

 

つまりは、立花伯爵邸「大広間」が誇る-明るさと軽やかさと新しさ-を、皆さまと共に実感できるようになればと願っております。

 

 

参考文献 NHK for School国指定文化財等データベース(文化庁)吉水神社(奈良県)臨済宗相国寺派銀閣寺(京都府)元離宮二条城(京都府)西本願寺(京都府)名古屋城(愛知県)高山陣屋(岐阜県)木子文庫(東京都立図書館)

 

【立花伯爵邸たてもの内緒話】は、明治43年(1910)に新築お披露目された立花伯爵邸の建物・庭園の、内緒にしている訳ではないのに誰もご存知ない、本当は声を大にして宣伝したい見どころを紹介します。また、(株)御花 が取り組んでいる文化財活用の一環である、平成28~31年(2016-2019)の修復工事の記録や裏話もあわせてお伝えします。

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