金銀に輝く壁紙にひそむ新旧の技術
2023/1/31平成28~31年(2016-2019)の修復工事では、経年により変色した「大広間」の壁紙を、新旧の技術で再現して張り替えました。
作業はすべて、今では失われつつある、京都の職人さん【(株)丸二】の技によります。
◆ 旧壁紙の剥取
黒ずんでいた菱形文様は、蛍光X線分析を主とした調査の結果、真鍮(銅+亜鉛)による金色と銀の2色刷と判明しました。経年により、銀は黒色に、真鍮は銅が緑青化して緑がかった褐色に見えていたのです。
◆ 組子の修理
◆壁紙の下張り
可能なかぎり旧来の手法を踏襲しましたが、下張りは反故紙を利用せず、新たな和紙を、厚さや糊付けを変えて七重に貼り重ねた上に、本紙を上張りしました。
①骨縛り:厚めの楮紙と濃いめの糊により、組子の暴れと型くずれを防ぐ
②胴張り:虫害や変色につよく、燃えにくい緑色の名塩和紙(雁皮に泥土をまぜた和紙)により、骨が透けて見えるのを防ぐ
③田の字簑:少し濃いめの糊を田の字につけ、緩衝となる空気層をつくる
④簑縛り:楮紙を押さえつけ、壁面化させる
⑤浮け:楮紙により通気のための層をつくり、下地の灰汁を通さない
⑥浮け(二重浮け)
⑦浮け縛り:茶色の機械漉和紙(混入物がない、のびが少ない)により、下が透けず皺がでない
◆壁紙の本紙上張り
本紙は越前の手漉き和紙です。和紙を漉くための枠「漉きぶね」も、「大広間」壁紙のサイズに合わせ、通常の襖のサイズよりも大きくなっています。
金銀2色の文様はスクリーン印刷、顔料は金属粉よりも変色しにくい、雲母と酸化チタンからつくられる顔料を使いました。
丈夫な越前の手すき和紙に、新技術で刷られた輝きが、100年後まで変わらずに続いていくはずです。
※新技術は新しいので、まだ100年の実績はないのです
壁紙が張り替えられた「大広間」は、とても明るく軽やかで、修復前とは印象がガラリと変わりました。
(株)御花では、この「大広間」を結婚披露宴の会場としても活用していますが、金銀でおめでたく華やかな宴にピッタリ。
100年前の建築当初には想定していなかった使い方なのに、先見の明でしょうか……
しかし、明るさと軽やかさのヒミツは壁紙だけではありません。ヒミツはまだまだ残されていますので、これから明かしていきます。
【立花伯爵邸たてもの内緒話】は、明治43年(1910)に新築お披露目された立花伯爵邸の建物・庭園の、内緒にしている訳ではないのに誰もご存知ない、本当は声を大にして宣伝したい見どころを紹介します。また、(株)御花 が取り組んでいる文化財活用の一環である、平成28~31年(2016-2019)の修復工事の記録や裏話もあわせてお伝えします。